逆流性食道炎
胃酸が食道側に逆流して食道がただれて、胸やけ、みぞおちの痛み、のどの痛み、違和感、飲み込みにくさ、咳、痰などいろいろな症状が出ます。
診断
胃カメラで食道を観察して、粘膜の異常があれば診断できます。はっきりとした異常がないときでも症状を自覚することがあるため、治療薬を開始して効果を確認します。
治療
食べ過ぎ、脂っこいもの、炭酸、コーヒーなどカフェインが多い飲み物、柑橘類、アルコールで症状が悪くなることがありますので食生活を見直します。また、肥満の解消や就寝時に頭を上げて寝ることにより症状を軽くする効果があります。
胃酸を抑える薬、胃の運動を改善する薬、漢方薬など薬剤で治療します。薬を中止すると再発することが多く、人によっては薬を飲み続ける必要があります。病状が軽い方は、症状がでたときにだけ服用することも可能です。
食道と胃の境に炎症があります。
胃炎
胃に起こる炎症です。みぞおちに痛みを感じることが多く、原因には飲酒、薬、酸やアルカリ性物質、放射線、細菌、アレルギー、ストレスなどがあります。
胃の炎症が長期間続くことを慢性胃炎といって、胃に住むヘリコバクター・ピロリという細菌(ばい菌)が原因で起こります。自覚症状は胃のむかむかやもたれなど、何も症状がない場合もあります。
診断
胃カメラで胃粘膜を観察して診断します。胃の状態をみてピロリ菌を調べる検査を追加します。
治療
胃粘膜を保護する薬や胃酸を抑える薬で治療します。ピロリ菌に感染していれば除菌治療が必要です。
胃、十二指腸潰瘍
胃や十二指腸の壁に炎症が起こり深い部分まで傷ついている状態をいいます。食前や食後にみぞおちの痛みを伴うことが多く、ひどくなると潰瘍から血が出たり潰瘍に穴が開いたりすることもあります。原因は胃に住んでいるピロリ菌や薬、ストレスなどです。ほとんどは飲み薬でよくなりますが、深い場合、出血している場合は入院して絶食点滴治療を行います。
診断
胃カメラで観察して診断します。胃がんで潰瘍ができることがあるので胃潰瘍の組織を採取して顕微鏡で詳しく調べる生検を行ってがんがないか調べます。ピロリ菌が関係していることが多いためピロリ菌の検査を行います。
治療
胃酸を抑える薬、胃粘膜を保護する薬で治療します。ピロリ菌の感染があれば除菌治療を行います。潰瘍から出血しているときは内視鏡による止血治療や鉄剤、輸血が必要なことがあります。出血が止まらない場合、潰瘍が破れて胃や腸に穴が開いている場合は手術を行います。
食がん
食道にできるがんで、食道上皮にできる重層扁平上皮がん(90%以上)とバレット食道にできるバレット腺癌があります。バレット食道とは食道下部に胃酸の逆流による炎症を繰り返すことで食道の粘膜が胃の粘膜に置き換わることを言います。バレット腺癌は日本人には稀ですが、ピロリ菌感染率の減少に伴い増加することが推測され、バレット食道がある方は年1回の胃カメラをおすすめしています。60歳以上の喫煙や飲酒の習慣がある男性に多い傾向があります。さらに、食道がんにのどや口腔のがんを合併することがあります。
診断
胃カメラで観察して疑わしい部位から少量の組織を採取して顕微鏡で詳しく調べて診断します。
治療
専門施設を紹介します。早い段階であれば内視鏡治療が可能です。進行した段階だと手術や放射線、抗がん剤による治療を単独、または組み合わせて行います。
胃がん
胃にできるがんで、ほとんどピロリ菌が原因です。ピロリ菌が胃に住んでいると胃壁に炎症が起こり、胃の粘膜が薄く(萎縮)してきます。萎縮の程度がひどくなるにつれ胃がんの危険性も高くなります。胃がんの危険性を減らすためにはピロリ菌を駆除する治療(除菌治療)が必要です。除菌に成功すると胃がんの危険性を減らすことができますが、除菌しても胃がんができることがあるので年1回胃カメラで経過をみることが大事です。
診断
胃カメラで観察して疑わしい部位から組織を採取して顕微鏡で詳しく調べて診断します。
治療
専門施設を紹介します。早期であれば内視鏡治療、進行していると手術や抗がん剤治療を行います。
ピロリ菌
ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)は胃に住む菌で、胃炎、胃十二指腸潰瘍、胃がんの原因となります。ピロリ菌は中高年に多く、若い人には少ない傾向にあります。不衛生な水や感染者からの口移しなど口を介する感染が考えられており、ほとんどが幼児期に感染して成人での持続的な感染はまれと言われています。
診断
当院では迅速ウレアーゼ試験と尿素呼気試験を行っています。迅速ウレアーゼ試験とは胃カメラの際に胃の組織を少しだけ採取して黄色の試薬につけてピンクに変色すれば陽性と判定します。胃カメラを受けた同じ日に検査と結果の説明ができます。その他の方法に血液、呼気、便で調べることもできます。ただし、保険の規則上胃カメラを受けずにピロリ菌検査や治療だけ行うことはできません。
治療
ピロリ菌がいれば駆除する治療(除菌)を行います。胃酸を抑える薬と抗菌薬を2種類、計3種類の薬を朝と夕方の2回内服して1週間続けます。内服終了日から1か月以上間隔をあけて尿素呼気試験で除菌できたかどうか判定します。
尿素呼気試験とは、絶飲食で検査の薬を飲み、20分後に吐き出した息を採取して判定します。胃カメラは必要ありませんが、結果が出るまでに1週間弱かかります。
除菌不成功の場合は抗菌薬の種類を変更して再治療(二次除菌)を行います。およそ90%以上の方が除菌に成功します。再感染率は数%以下で稀ですが、生水や井戸水など衛生的でない水は飲まない方がいいでしょう。
除菌薬を服用している間は飲酒を控える必要があります。また、まれですが発疹やひどい下痢、血便など副作用が出たら中止して必ず連絡してください。
除菌成功後に胃酸の分泌が回復して逆流性食道炎を発症、増悪することがあります。
大腸がん
大腸にできるがんです。2016年がんが発生した部位のデータでは大腸がんが最多でした。良性のポリープが大きくなり、その一部からがんができる場合と、正常な粘膜から直接できるものがあります。小さい段階では症状はほとんどありませんが、大きくなると便秘や下痢を繰り返す、便が細くなる、便に血が混じるといった症状が出ることがあります。さらに大きくなって便の通りを妨げると腸閉塞となり、ガスや便の出が悪くなって吐き気や腹痛、お腹の張りを自覚するようになります。ひどいときは腸が破れて腹膜炎を起こすこともあります。
診断
大腸カメラで観察して疑わしい部位から組織を採取、または内視鏡的に切除して顕微鏡で詳しく調べて診断します。
治療
早期であれば内視鏡的に治療します。進行すると外科手術や抗がん剤治療を行います。
肝炎
急性肝炎と慢性肝炎があり、急性肝炎は急激に肝臓に炎症が起こった状態で、慢性肝炎は肝臓の炎症が6か月以上続いた状態をいいます。肝臓の炎症は血液検査のASTやALT、ALP、γGTPで判断します。肝炎の原因は、アルコール、肥満、薬、アレルギー、ウイルスなどの感染、腫瘍、鉄や銅の異常、内分泌疾患など様々なものがあります。サプリメント、健康食品によって起こる場合もあります。血液検査や画像検査、必要があれば肝生検(入院して肝臓の組織を採取して顕微鏡で詳しく調べる検査)まで行って原因を特定して治療を行います。
肝硬変
肝臓は再生能力に優れていますが、肝炎により炎症が長く続くと肝臓全体が硬くなってきます。肝臓が硬くなった状態を肝硬変といいます。肝硬変になると肝臓が果たすべき役割を果たすことができず、お腹に水がたまって張ってきたり(腹水)、食道や胃の血管が瘤のように腫れて破れ大量に出血したり(食道胃静脈瘤破裂)、肝臓で処理するはずのアンモニアなどの有害物質が処理できずに体にたまって意識障害を起こしたり(肝性脳症)することがあります。その他にも食欲低下や全身倦怠感、こむら返りなど様々な症状が出ます。肝硬変は命にかかわる状態であるため、肝炎の段階でしっかり治療して肝硬変へ進行しないようにしないといけません。末期の肝硬変になると改善は難しく、肝移植のみが有効な治療となります。
肝機能の低下した肝硬変では身体障碍者手帳の取得により補助が受けられます。ただし、お酒が原因の肝硬変では取得できません。
脂肪肝
肝臓に脂肪がたまった状態です。お酒の飲みすぎや肥満、糖尿病、薬の副作用、小腸やすい臓の特殊な手術などが原因となります。飲酒、肥満、糖尿病に合併する脂肪肝は生活習慣と深いかかわりがあり、食生活や体重のコントロールが有効です。アルコールによる脂肪肝では脂肪肝から肝炎、肝硬変、肝がんへと進行する危険性があります。また、飲酒していない脂肪肝のうち約10%の患者さんは肝硬変へ進行する場合があり、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:ナッシュ)といいます。診断には肝生検(入院して肝臓の組織を採取して顕微鏡で詳しく調べる検査)が必要です。血液検査でAST、ALTが高い脂肪肝は注意が必要です。治療は飲酒があれば節酒、禁酒、肥満があれば減量、さらに糖尿病や高血圧など合併疾患が多く、それらのコントロールが大事です。脂肪肝への特効薬はありませんが、高脂血症の薬や糖尿病の薬、ビタミン剤で改善傾向となった症例が報告されています。
B型肝炎
概要
B型肝炎ウイルス感染による肝臓の炎症です。肝臓に炎症があると血液検査でAST、ALTが上昇しますのでAST、ALTを調べると炎症の強さがわかります。感染経路は主に体液、血液からで、母子感染や夫婦間感染、輸血や注射針の回し打ちなどで感染します。
現在はすべての新生児にB型肝炎ワクチンを注射するようになり、出産予定の母親も血液検査でB型肝炎を調べて、陽性なら新生児に感染予防の処置を行うようになっているため、今後新規の感染者は減少すると予想されます。
感染後の経過
小児期に感染するとウイルスが排除されず肝臓に住み着きます。ウイルスが肝臓に長期間感染している状態をキャリアと呼びます。キャリアになると肝臓で炎症を繰り返して肝硬変や肝がんへ進行する恐れがあります。また、B型肝炎は肝硬変まで進行していなくて、炎症が落ち着いていても肝がんができることがあるので、年2回血液検査と腹部エコーなど画像検査で経過を見ることが大事です。キャリアのほとんどは青年期にウイルスが減少して炎症が治まりますが、炎症が強い場合や中年期になっても肝炎が持続する場合は抗ウイルス剤を服用して炎症を抑える治療を行います。残念ながらウイルス駆除する薬はまだ開発されていませんので、増殖を抑える薬で炎症の進行を抑えます。そのため長期間の服用が必要です。薬にはバラクルードやベムリディなどを使用します。薬の費用は申請すれば国からの助成がでます。
青年期以降のB型肝炎ウイルス感染では、ほとんどの方が免疫によってウイルスが自然に排除されます。その際、急性肝炎や重症の急性肝炎(劇症肝炎)を起こして命にかかわることがあります。欧米のB型肝炎ウイルスに感染すると約10%の確率でキャリアとなることがあります。欧米のB型肝炎ウイルスは遺伝子型Aが多く、日本ではCとBがほとんどです。遺伝子の型は採血でわかります。免疫を抑える治療を受けている方もキャリアになる恐れがあります。
B型肝炎再活性化とは
以前B型肝炎に感染して現在は治癒している方で、免疫を下げる治療(免疫抑制治療)を受けるとB型肝炎ウイルスが再増加して肝炎を起こす危険があります。肝移植例や死亡例も報告されています。
免疫を下げる治療にはリウマチなど膠原病や臓器移植後に使用する免疫抑制剤やステロイド、抗がん剤などがあります。それらの免疫を下げる治療を受ける方は、あらかじめB型肝炎にかかっているかどうかを血液検査で調べます。B型肝炎のワクチンを打ったことがなくてHBs抗体かHBc抗体が陽性ならかかったことがあると診断します。その場合は免疫抑制治療中と治療終了1,2年は2,3か月ごとにB型肝炎ウイルスを測定して、増加があればすぐにB型肝炎の薬を開始します。HBs抗原が陽性ならB型肝炎として免疫抑制治療前にB型肝炎の薬を開始します。
C型肝炎
C型肝炎ウイルスが感染することで起こります。感染すると約30%は急性肝炎を起こしてそのままよくなりますが、70%はウイルスが肝臓に住み着きます。ウイルスによる肝臓の炎症が長く続くと肝硬変や肝がんを合併する危険性があるため、感染が判明した時点でウイルスを駆除する治療が必要です。以前はインターフェロンという体に負担がかかる注射薬が主流でしたが、2014年から飲み薬が発売されました。現在使用されている薬は服用8-12週間で副作用は少なく、ウイルス駆除率は95%以上と大変素晴らしい薬です。ただし薬の値段が高く、一連の治療に数百万円かかります。日本では国からの助成があり月1-2万円の負担で治療が可能です。多くの患者さんがウイルス駆除に成功しており、今後C型肝炎ウイルスの撲滅が期待されます。数年前まで肝臓がんの原因はC型肝炎が最多でしたが、現在は患者さんの減少に伴い減少しています。
C型肝炎ウイルスの駆除に成功しても、そのときの肝臓の状態によっては肝がんができることがあるので、引き続き年2-3回の血液検査、画像検査で状態をみる必要があります。C型肝炎ウイルス治療後の肝がんは高齢、男性、飲酒習慣がある、血小板が低い、脂肪肝がある方に多いことが報告されています。